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名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)157号 決定 1976年4月30日

抗告人

井海良三

外二名

右抗告人ら三名代理人

赤塚宋一

相手方

森下貞子

右代理人

伊藤典男

外一名

相手方

株式会社阪奈信用企画

右代表者

吉沢三郎

主文

原決定を取消す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙その一のとおりである。

二よつて按ずるに、本件記録によれば、抗告人井海いちへ、同井海清子(本件競売事件の各債務者兼所有者)は、津地方裁判所上野支部に対し、債務者である相手方森下貞子を被告として、抵当権不存在確認の訴(同裁判所昭和五〇年(ワ)第四三号)を提起すると共に、右相手方を被申請人として、別紙その二の物件(一括競売に付され、相手方阪奈信用企画に対し本件競落許可決定が言渡された(一〇)(一五)(一六)の本件宅地、建物を含む)に対する競売手続停止の仮処分を申請し、同裁判所は、昭和五一年三月二六日抗告人主張のとおりの仮処分決定をなし、そのころ、右抗告人らは、右仮処分決定正本を原裁判所に提出していることが認められる。

ところで、本件競落許可決定が言渡されたのは、昭和五〇年一二月二六日であるから、右仮処分決定正本が原裁判所に提出されたのは競落許可決定言渡より後であることは明らかであるが、抗告裁判所は、競落許可決定後に生じた事由をも斟酌し、抗告の裁判をなす当時の状態において抗告の当否を決すべきものであるから、右事由は、競売法の準用する民訴法第六八一条二項、第六七二条一号後段に該当し、適法な抗告事由となるというべきである。

そして、本件のように、競売期日後に停止決定正本が提出された場合には、停止決定前になされた競売期日の手続は適法であり、競売裁判所は、同法第五五〇条二号、第五五一条により、既になした処分を一時保持すべきであるから、抗告裁判所は、競落許可決定のみを取消し、競落の許否未決定の状態に置けば足りるのであり、それ以上に進んで競落不許の宣言まですることは相当でない。同法第六七四条二項但書の規定はこの場合に該当する規定ではない。

そうでないと最高価競買人の適法に取得した地位をみだりに奪う結果となり極めて不合理である。

三よつて、本件競落許可決定の取消のみを宣言することとして、主文のとおり決定する。

(柏木賢吉 松本武 菅本宣太郎)

別紙その一

【抗告の趣旨】 原決定を取り消し、相当な裁判を求める。

【抗告の理由】 一、抗告人井海良三は、昭和四五年四月一〇日相手方森下貞子から昭和四五年四月一〇日五〇〇万円を借り受け、同日これと同一金額の約束手形(満期同年五月一〇日)を右相手方に対し、振出し、交付し、ついで同年四月二〇日右借受金の利息の支払にあてるために、右相手方に対し金額三〇万円の小切手を振り出した。

従つて右相手方の、抗告人井海良三に対する債権額の合計は元利金共で五三〇万円である。

右債権担保のため、同年五月一五日に抗告人井海いちへ、同井海清子と相手方森下貞子との間に右抗告人ら所有の別紙その二記載の物件につき、低当債権額を五五〇万円とする低当権設定契約及び連帯保証契約が結ばれ、同月二〇日付でこれら物件に対し低当権設定登記手続が経由された。

二、本件競売は、右低当権の実行として、右各物件につき進められ、本件宅地、建物につき津地方裁判所上野支部は、昭和五〇年一二月二六日相手方阪奈信用企画を最高価競買申出人として、本件競落許可決定を言渡した。

三、しかしながら、抗告人井海良三は、右抵当被担保債権の弁済として昭和四五年八月八日に四〇〇万円、同年九月一四日に一三〇万円を相手方森下貞子に支払い、右債務は元利共に完済となり前記抵当権は既に消滅している。

従つて、本件競売手続は、続行すべきではなく、本件宅地、建物につきなされた本件競落許可決定はもとより違法である。

四、のみならず、本件宅地、建物を含む別紙その二記載の全抵当物件につき、抗告人井海いちへ、同井海清子は、相手方森下貞子を被申請人として津地方裁判所上野支部に不動産競売手続停止の仮処分を申請し、同裁判所昭和五〇年(ヨ)第一二号事件として、同裁判所は昭和五一年三月二六日に「被申請人(相手方森下貞子)は、申請人ら(抗告人井海いちへ、同井海清子)と被申請人間の同裁判所上野支部昭和五〇年(ワ)第四三号低当権不存在確認訴訟事件の確定判決あるまで、別紙その二記載の不動産に対する低当権の実行、譲渡、その他一切の処分をしてはならない。」旨の仮処分決定を言い渡した。

五、よつて、本件抗告に及ぶ。

別紙その二  物件目録<省略>

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